皆さん、こんにちは。
植物性の天然香料(エッセンシャルオイル)は葉や花、果皮や樹皮などから抽出して作られますが、その抽出方法は水蒸気蒸留法、圧搾法、有機溶剤抽出法など様々で、抽出する植物の特性や獲得したい香気成分に合わせて手法を選定します。
抽出方法の名前は聞いたことがあるけどちゃんとした原理はよく知らない、どの抽出方法が適しているのか分からない、そんな人も多いのでは。
フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする【フレグランス・ラボ通信】第18回目は、「天然香料の抽出 Vol.1 水蒸気蒸留法」に関するお話です。
水蒸気蒸留法とは
■原理
水蒸気蒸留法(Steam distillation)とはその名の通り、水蒸気(高温の気体)を使って植物から香気成分を抽出する方法です。
植物を入れた蒸留窯に沸騰した蒸気を流し込んでいき、窯内で植物と蒸気を接触させます。
すると植物内の香気成分が蒸気の熱で揮発し、香気成分を含んだ水蒸気となって蒸留窯から冷却管へと流れていきます。冷却管内で急激に冷やされた水蒸気は液化し、受器と呼ばれるタンク槽に溜まります。水蒸気由来の水と植物由来の油(天然香料)が混ざった状態で抽出されるので、この受器内で水と天然香料が分離するまで静置させた後、天然香料のみを回収します。
水側にも水溶性の香気成分が微量溶け込むことがあり、芳香蒸留水(アロマウォーター、アロマエキス)と呼ばれ化粧品などにも使われています。
■注意点
植物に含まれている香気成分の量には当然限度があるので、無邪気に水蒸気を流し続けているとオフフレーバー(変性した香気成分)の出現や芳香蒸留水の濃度が薄まる原因にもなるので、水蒸気を流す速度や時間は要注意です。
また、冷却管が十分に冷えていないと水蒸気が液化しないまま排出されてしまうので、冷却管へ流す水の温度は4~10℃がベストです。
水蒸気蒸留法が適さないケース
水蒸気蒸留法は装置が比較的安価で且つ大量処理ができるので、非常に多くの植物の抽出にこの方法が使われています。しかし、レモンやベルガモットのような柑橘類の植物には適しません。これは植物自体が長時間熱にさらされることで、主成分である熱にデリケートな香気成分が変質・分解してしまう為です(光毒性の成分を熱分解させる目的であえて水蒸気蒸留法を選ぶ場合もあります)。
また、水溶性を持つ香気成分を油(天然香料)中に回収したい場合も、水蒸気蒸留で抽出すると水側へ溶け込んでしまうので適しません。
簡易な蒸留であればご自宅でもできます。回収したい香気成分は熱で分解しやすいのか、水溶性を持つのか、そういった側面から水蒸気蒸留法が適しているかを判断してみてください。
近年の技術
蒸留器は8世紀の錬金術に起源があり、13世紀ごろに日本でも薬油や酒類の蒸留をする「ランビキ(蘭引)」と呼ばれる現在の水蒸気蒸留の元となる蒸留器が開発されて以来、蒸留技術の発展は日進月歩で、近年では様々な特徴を持った蒸留装置が開発されています。
蒸留装置としてはSCC(スピニング・コーン・カラム)/マイクロ波抽出装置などが新しく、専門的な内容は省きますが共通して言えるのが「減圧蒸留」ができる点にあります。
減圧蒸留はその名の通り、蒸留窯の内部の気圧を下げて蒸留する方法です。
例えば山に登ったら気圧が下がってお湯が100℃以下で沸騰するという話を聞いたことがありませんか。同じように蒸留窯内部の気圧を下げる事で水の沸点を下げ、熱で変性・分解しやすい香気成分を水蒸気蒸留で回収できるようにしているのです。
装置にもよりますが、40~50℃くらいまで沸点を下げて蒸留しているメーカーもあるそうです。かなりフレッシュな香りが抽出できそうですが、逆に重い香りの抽出には不向きなので、獲得したい香気成分に合わせて減圧の具合を調整する必要があります。
水蒸気蒸留と一言で言っても様々な条件が選択できる近年の技術、お手元にある天然香料がどういった条件で抽出されたものなのか、想像を膨らませて香りを嗅ぐとまた違った面白さがあるかもしれません。
最後に
今回のフレグランス・ラボ通信は「天然香料の抽出Vol.1 水蒸気蒸留法」をお届けしました。水蒸気蒸留法で抽出できる天然香料を100%使用した製品の例を下記にあげておりますので、実際の商品を店頭などで試してみてはいかがでしょうか。
ではまた次回、【フレグランス・ラボ通信】〜香りのエトセトラ〜でお逢いしましょう。