皆さん、こんにちは。
フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする【フレグランス・ラボ通信】第7回目は、魅力的な花たちのお話です。
私たち人間のみならず、蝶やミツバチたちもその芳しい香りに魅了されてしまうそんな花々。
ESSENCE & FLEUR Vol.1 今回はローズの香りについてお話をします。
ROSE(薔薇)の分類と香気について
花たちもまた動物と同じように種の保存を目的として子孫を残してゆくためのしくみを持っていますが、動物と違うところは自分たちの意志で受粉(子孫を残す行為として)出来ないというところです。
皆さんもよくご存じの通り、大体の果樹の花にはおしべとめしべがあって昆虫や風によって花粉が運ばれることによってはじめて受粉され、実の付くものにはやがて実がなり、その実を鳥や動物が食べることで、種子が運ばれてやがては別の土地でその子孫たちが命を宿すことになります。
そのため、昆虫や鳥たちを引き寄せるためにその芳しい、甘い魅力的な香りを放っているのだと言われています。
そしてそのきれいな色彩や愛らしい形にも理由があって、私達人間の心をも、つかんで離さないように惹きつけるためなのかもしれません。
何故なら、ガーデニングの人気は下がることなくこのコロナ禍にあってはさらにその人口も増え続けているようですし、人が時間も忘れてその手入れに夢中になるほど魅了されてしまう存在だと言えるのではないでしょうか。
その中でもバラは、花の中の女王とでもいえる存在かと思います。
世界中でその品種は約2万種類もあると言われているのですから、交配され品種改良をされてこれからもどんどん増えてゆくのでしょう。
その姿や色彩のみならず、香りにもヴァリエーションがあって一口に「バラの香り」という表現では表現しきれないものです。
ワイルドローズ・オールドローズ・モダンローズとは?
分類としてはワイルドローズ、オールドローズ、モダンローズという大きな区分けがされています。
今園芸店やお花屋さんで置いているものは、ほぼモダンローズの分類になりますが、ワイルドローズからオールドローズという流れで交配を繰り返し作り出されてきた新しいローズがモダンローズということなのです。
ブルガリアが有名なオールドローズの分類になるダマスクローズでは、少し芋っぽい香りがします。
これは香気成分の約75%が「フェニルエチルアルコール」という成分で通称は「ローズP」といわれるものです。
ではモダンローズとはどんなローズでしょうか?
1867年に発表された「ラ・フランス」という名のハイブリッドティーローズ系の第一号品種であるこのローズから以降に育成された系統のものをモダンローズの範疇としているようです。
(引用:植田善弘「バラ 生い立ちと歴史、未来への展望」バラ大百科 NHK出版2006年)
古くはローマ時代から人々によってその香りが愛でられたオールドローズは華やかで強い甘さがあるのに対して、モダンローズの香りの強さは少し劣っています。
それは香りの豊かさよりも花型や花の色、花付きの良さ、栽培の容易さなどに重きを置いて交配と品種改良がなされてきた結果なのかもしれません。
しかし、モダンローズのなかにも独特の香りを放つものもあってその上品でソフトな芳香に私はとても癒されます。
ダージリンティーの香りがするローズ!?(ティー・ローズ)
中でも「レディーヒリンドン」というバラは、ティー・ローズ(Tea Rose)と言われるもので、ダージリンティーの茶葉の香りがします。
これは、幻のバラといわれる中国の「大花香(だいかこう)水月季」の流れをくむティー・ローズがヨーロッパに渡ってから派生して生まれたものと推測されていますが、日本でも「芳純」という名のバラに同じようにダージリンティーの香りを感じることができます。
長年にわたって資生堂で調香師をされていた中村祥二さんによると、この香りを特徴づけている成分はジメトキシ・メチルベンゼンであると言われています。
また、身近なところでいえば白の「モッコウバラ(木香バラ)」は豊潤な香りを放ちます。
毎年5月ごろには満開になるモッコウバラですが、私の自宅の庭でもアーチに蔓を絡めて年々そのボリュームを増しているのですが、豊潤な香りはパウダリーノートで少しオレンジブロッサムやネロリの香気を感じます。
うっとりするようなその香気は庭中に充満して蜂たちも集まってきます。
また咲き始めと花が散る終盤ではその香りの質も微妙に変化してゆきます。
爽やかな甘さから次第にバニリックで粉っぽさが引き立つような濃厚な香気は奥行きのある香水調です。
モッコウバラには黄色と白色がありますが、黄色には香りはほぼありません。
香りを楽しみたければ白の八重咲をお勧めいたします。
また、棘がないのも手入れしやすくていいのと、割と丈夫で手軽に育つため日当たりのいい場所に植えるといいでしょう。
リンゴやイチゴ、洋ナシまでバラ科の植物
皆さんはバラ科の植物にはヴァリエーションが豊富だということをご存知でしょうか?
サクラ、リンゴをはじめイチゴ、サクランボ、ラズベリー、洋ナシなど90属2500種類もの植物がこのバラ科に属しています。
バラ自体にも大変多くの品種があるというお話はしましたが、このように他の植物であっても同じ科目に属しているものという観点では、香りの成分的にも少し関連性があると言ってもいいのではないかと思っています。
モダンローズにはフルーティーな香りを持つものも多く、洋ナシやほのかにチェリーのような香りがするものもあります。
また、イングリッシュローズは全般に芳香が強くまたその中に「ミルラ香」と表現されるミルラの香りを感じるものがあると言われています。
ミルラ (Myrrh)(和名:投薬)とは、カンラン科の樹木でその樹脂からとれるオイルですが、古代エジプトの時代に太陽神ラーに捧げる薫香としてその儀式に用いられてきたものですが、現代の香水にも使われています。
バルサミックでスモーキーなその香りには防腐効果があるため、ミイラを腐敗から守る目的で使われたことで、ミルラと呼ばれるようになったのです。
私もまだローズにそのような香りがあることを体験したことはないのですが、是非嗅いでみたいと思っています。
千葉県佐倉市の「佐倉草ぶえの丘バラ園」にはそのミルラ香がするバラがあるようですので気になる方は是非行ってみてください。
Ayrshire Splendens(エアシャー・スプレンデンス)という品種の様です。
このバラ園がすごいことには、1250種、2500株のバラが植えられているということと、もう一つは、香りのいいバラだけを集めたコーナーがあるということです。
バラの香り好きには本当にたまらないバラ園ですね!
ボッチチェルリの「春」に登場する原種のバラ「ロサ・ガリカ」や香水の原料オイルをとるセンティフォリア・ローズとブルガリア・ローズをはじめまさにバラの楽園と言っても過言ではないその品揃えは見事としか言いようがありません。
さて、今回はエッセンス&フラワーのVol.1として「ローズ(薔薇)」のお話をさせていただきました。
また、ルームフレグランスとしてローズの入った香りを下記にご紹介し ますので、お部屋で楽しみたい方には是非こちらもお試しください。
次回は「ジャスミン(Jasmine)」についてお話ししたいと思います。
では、次回 香りのエトセトラ第8回もどうぞよろしくお願いします。