皆さん、こんにちは。
今回は、香りを様々な五感を使って感じることをテーマにお話したいと思います。
香りは「かぐ」だけではない、そんな少し哲学的なアプローチです。
フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする【フレグランス・ラボ通信】第5回目は、「香りはみてとれる」というお話です。
Fragrance is Visible「香りはみてとれる」
香りが見える?!ってどういう意味ですか?って皆さんはおそらく思われるかもしれませんね。香りは実際のところ目視することは出来ません。
しかし、この言葉には深い洞察があるのです。平安時代の香道では「香りを聞く」という表現をしますが、これを聞香(もんこう)と言います。
まさに香りを聞き当てるというものですが、みてとれるというのも使う五感こそ違えども深く観察して理解するという意味合いでは共通しています。
実は私が香りの世界に足を踏み入れるきっかけとなった言葉がこの「香りはみてとれる」という言葉だったのです。
香りにはそれぞれのマテリエに色彩があってその色合いをもとにして調香をしてゆくという流儀を私は学びました。
香りと色彩、アクロマティックシステム
フランスの調香師たちも中には香りに色彩を感じ取って調香をしているという方もいらっしゃいますが、すべてのマテリアルにたいして色を符合させて調香のシステムを作った人は今だ いないのではないかと思っています。
大変失礼な言い方ですが、ほとんど無名に近い香道のその師匠から私が学んだことはまさに芸術的なアプローチでした。
アロマティック(香り)とクロマティック(色彩)とを符合させるというその基本概念(アクロマティックシステム)を最初に作られた恩師はもうお亡くなりになられて久しいですが、師曰く私が最後の弟子だとのお言葉を生前にいただいたことは私が一生をかけて引き継ぐ覚悟をきめたきっかけでもありました。
しかしながら教えを受けたのもその4年間ほどの期間であったために、ごくごく基本的な事しか受け取れていなかったことに後で気づき、その後は十数年かけて独学でその体系の幅を広げてゆきました。そして今もなお修行は続けています。
その頃は平日に香り雑貨の企画を考え、営業もしながら香り雑貨という未知のマーケット作りに奔走し、土日はほぼ師匠のお宅に入り浸ってマンツーマンでの指導を受けていました。
化学者でもありまた香料会社も経営されていた師匠とのやり取りは、まるで禅問答のように自分に向き合う時間でもあったことをいまでも懐かしく思い出します。
目に見えるもの、目に見えないもの
「色即是空・空即是色」
この言葉は仏教のことばで、この世のすべての物事は実体がなく空(くう)であり、その空であるものがこの世のすべてであるという意味ですが、般若心経のなかのことばとして有名です。
師匠はこの言葉をよく口にされていましたが、師匠はきっとこの言葉をとらえて「香りはみてとれる」といわれていたのではないかと後になって気づきました。
私たち人間は、普段目に見えるモノを現実的な実体として受け止めています。
つまり目に見えないものは軽んじてしまう傾向があると思うのですが、目に見えるモノも実は実体などはなく、逆に目には見えないから実体もないという考え方も間違っているというこの教えには、心震わせるものを感じます。
香りのマテリエ(レシピ)
香りのマテリエ(レシピ)には、絵具と同じように色彩があるので、まず該当する色合いのマテリエをパレットに取ります。
そして白いカンヴァスに絵を描くようにして調香してゆくのですから、イメージする光景をそのまま香りに写し取ることが出来ます。
理屈で考えて理論的に組み立てるのではなく感性的な創作となるため、想い描いた光景や情景描写を瞬時に作ることが出来るのです。
また、色彩だけではなく同時にそのマテリエに対するイメージの言葉も付加して記憶してゆきます。
匂いが持つイメージを複数の言葉に置き換えておくことは非常に重要です。
その蓄積がやがては調香師としての表現の幅に繋がってゆくことになるのですから・・。
五感の相互作用
クロスモーダル現象という言葉が在りますが、クロスモーダルとは私達が物事を認識する際には、視覚と味覚とか触覚と聴覚とか複数の感覚がお互いに作用し合って 知覚していると言われています。これがクロスモーダルです。
香りに色があるように、音にも色があります。
「やさしい音色(ねいろ)」とか「黄色い歓声」とかいう言葉が存在するように、それが私たち人間にはもともとクロスモーダルな感性が備わっているという証なのです。
香りの分類 香階
香りには香階という区分けがありますが、これを「ノート」といいます。
トップノートは香り立ちが良く軽い香りの成分。
ベースノートは香り立ちが悪いですが香りの持続性が高い成分。
そしてそれらの特性の中間にあるのがミドルノートという区分けなのですが、この「ノート」という表現は音楽用語がその由来です。
「香り」にノート「音階」を当てはめることを考案したのが、19世紀のイギリスの調香師であったピエスです。
軽く鋭い香りは高音域に当てはめ、重たくよどむ香りは低音域という具合に香りの特性と音域を符合させています。そしてさらに、ドミソの和音が美しく響くように、香りの調香も和音としてそれぞれを当てはめることを目指しました。
香りの調香においても「調和のとれたいい調香」を表現する言葉として音楽用語であるアコードという言葉が使われています。「アコードのとれたいい香り」というような表現となります。
「香りはみてとれる」というアクロマティックシステムを用いた香りについて詳しく勉強したい、また香りについてのプロフェッショナルになりたい方へ。201LAB Fragrance Academyではそんなあなたの香りにまつわるスキルアップのための教室や教材などの提供を予定しています。ご興味のある方はこちらよりご確認ください。