巷のショップさんの店頭に沢山のムスクの香りの商品が並んでいるのを見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それほどまでにムスクは、人の心を掴んで離さない人気の香りのひとつとなっています。
麝香と言われるムスクは元々は薬だった!?/天然ムスク・合成ムスクとは/シクロペンタ・デカノリッドとは…
フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする 【フレグランス・ラボ通信】第3回目は、人気の香り「ムスク」についてのお話です。
ムスクは薬であり、強心剤やコレラの予防にも!?
麝香ともいわれることのあるムスクは現在香水材料として使用されていますが、本来、ムスクとは動物であるジャコウジカ(麝香鹿)の雄の香嚢から得られる動物性の薬として使われていました。
有史以前から用いられていたとされるムスクは、中国では漢方薬として用いられ大変高価なものとして取り扱われています。コレラの予防・精神衰弱やぜんそくに効果があるとされ、また媚薬としても使われていたそうです。
私は病理学のことはよくわかりませんが、確かに本来のムスクには特異な力があるように見受けられます。
香りとしてのムスクの役割
動物性香料としてのムスクの元々の香りは、「アンモニア+獣臭」のいわゆる不快な臭いをしています。それを乾燥させ溶解させたものをわずかな量だけ添加をすると、ムスクは官能的な香りと共に他の香りを引き立たせ、香りに「広がり」と「奥行き」を付加し、更に持続性も高まります。
また、ムスクの香りのニュアンスは、雄のジャコウジカが発情期にメスを引き付けるためのフェロモン物質であり「温かみやセクシーさ」を持ち合わせています。
そんなムスクですが、実は現在天然ムスクの流通は基本的に存在していません。昔はジャコウジカからムスクを摂る為だけに沢山屠殺されていました。ですが、今は種の保存と動物愛護の観点からワシントン条約にて取引が禁止されているからです。
ジャコウジカを救う合成ムスクの登場
ワシントン条約で規制された天然のムスクの代わりとして、近代の合成香料の研究とその開発の成果により数々の合成ムスクが作られました。
今や合成ムスクの進歩は著しく、その使用量は合成香料全体の2%以上、取引金額ベースでは7%にもなる程、合成ムスクが使われているそうです。ちなみに近年よく聞かれる「ホワイトムスク」は合成ムスクの総称として、天然ムスクと区別するためにつけられたものです。
この合成ムスクは香水の世界だけに留まらず、ルームフレグランスから洗剤・石鹸・入浴剤等々…香りの持続性を高めるためにかすかに入っているものも含めるのであれば、更に多種多様な香り製品に使用されています。ムスクはそれだけ私たちの生活に馴染み深い香料だと言えるでしょう。
シクロペンタ・デカノリッドの魔力
そしてムスクは特に女性に人気があるといわれています。フランスの科学者、Jacques Le Magnen(ジャック・ル・マニヤン)は、ムスクの匂いに関して女性は男性よりも敏感だということを実験で証明しました。
それによると、成熟した女性はムスク様の匂いを持つ成分「シクロペンタ・デカノリッド(通称:ムスコン)」を強く感じるのだそうです。それに対し、男性や少女はほとんどそれを感じない、という結果でした。更に、女性ホルモンの「エストロゲン」の増幅により、その感じ方もより強まるという事を実験結果は示したそうです。
因みに天然ムスクと合成ムスクは非なるものではありますが、最近の化学の発展により、分子構造的にはほぼ同じレベルにまで創り上げることが出来るようになっていると言われています。
鼻がもう少し低かったら歴史が変わっていたとまで言われた、紀元前エジプトの絶世の美女「女王クレオパトラ」は香り使いの達人で、このムスクを浴びるほど使用していたそう。そしてローマ時代の権力者であるアントニウスを魅惑したという逸話があります。
クレオパトラが媚薬や感情を高めるための道具として使用していたのか…または美貌をいつまでも保つためや、不老不死を願いその薬効を信じたのか…。どんどんイメージが膨らむ話のひとつです。
最後に
私たちアート・ラボでも、「ARTLAB.COLLECTION – Musk savon」や「LES COULEURS – フラワーディフューザー MUSK & MUGUET」のムスク系の香りをご用意しています。他にも街には様々なニュアンスを持ったムスク香料を使った品もあります。実際にテスター等で違いを確かめ、お気に入りの香りを見つけてみてはいかがでしょうか。
ではまた次回、 【フレグランス・ラボ通信】〜香りのエトセトラ〜でお逢いしましょう。